利用規約

ここに掲載されている台本は、Create a fantasy YUMAの提供するアプリケーションで利用する場合に限り利用可能です。

現在の対象のアプリケーションは

声劇仮想キャスト

です。
上記のアプリケーションに限り、動画共有サイトへの投稿、音声ライブサイトでの使用、イベント、舞台での使用等 すべての2次利用は報告なしにご利用いただけます。
著作権は放棄いたしませんが、ご利用に対して対価を請求することはございません。
お気づきの点、ご不明点などはここからお問い合わせください。


メトロネーゼに花束を

作:シュンタス

【 登場人物 】


出演者 No.1(いちばん) 柏木 直人  (かしわぎ なおと)

24歳。Mazzetto<マッツェット>社の雑誌ライター。大人になりきれない大人。
ライターとしての腕はいいのだが、いかんせん仕事が趣味のような男なので、
書きたいことを見つけると見境がなくなってしまう癖がある。上司である瀬尾も
手を焼いており、半ば諦め気味の様子。社会人としてのノルマや評価をこなす
慌ただしい生活で、自分が本当に書きたいこと、伝えたいことを見失っている。


出演者 No.2(にばん) 白波瀬 真帆 (しらはせ まほ)

12歳。白百合学院 初等部6年生。早く大人になりたい子供。
母のような仕事バリバリのカッコイイ女性を見て育ったため、口調が丁寧で、
かつテキパキしている。大人はこういうイメージ、と自分で理解し真似ができるくらいには
利発な少女である。一見するとマセているような印象だが、人見知りしているだけで、
本来は年相応に寂しがり屋。小学校では飼育係をしているらしい。


出演者 No.3(さんばん) 荒金 美咲  (あらがね みさき)

26歳。銀座駅構内にある花屋≪ロゼ≫の店長。
真帆の成長を、店を開いてから3年間見守ってきた。真帆は歳の離れた妹のような存在。
いかにも優しいお姉さん、と言った印象であるが、中身は意外とさばさばしている。
店を切り盛りしてきた影響か、気持ちの切り替えが早い。前向きで明るい性格である。


出演者 No.4(よんばん) 瀬尾

29歳。Mazzetto<マッツェット>社の編集長。直人の上司にあたる。
思慮深さと、適度なルーズさを併せ持つ。立場上、部下には厳しく接することもあるが、
それは期待の裏返しであることが多い。上司というより、良き先輩として慕われている。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【 Scene1: 崖っぷちの出会い 】



(満員の電車が駅のホームに到着する。)
(箱詰めの密室から次々に出てくる人、人、人。)
(その波に押し出されるようにして、柏木直人も下車した。)



直人  「はぁー……押し潰されて死ぬかと思った……(電話をかける)
     もしもし。ライターの柏木ですが……瀬尾編集長に繋いでもらえますか?」


瀬尾  『おいこら、柏木! 今どこにいる!』


直人  「へ、編集長ですか……? すいません。今、銀座駅に着いたところで……」


瀬尾  『何ぃ……?』


直人  「前に上げた原稿もう一度練り直そうと思って。作業してたらつい」


瀬尾  『仕事熱心なのは結構だが……
     今日は早めに出社するようにと、連絡がいってるはずだぞ?』


直人  「……例のコラボ企画の件ですか?」


瀬尾  『そうだよ。というか、分かってるならさっさと来んか』


直人  「編集長、前にも言いましたけど……僕はその企画、反対ですよ。
     テコ入れなんて必要ないです。ウケの良い記事なら、僕がいくらでも書きますよ……」


瀬尾  『まったく、クソ忙しい時に困らせるなよ。今どのあたりにいるの?』


直人  「銀座線から丸ノ内線方面に向かう地下通路ですけど。銅像が見えますね」


瀬尾  『銅像? <早川 徳次>像だな? そっからなら10分で着けるだろ』


直人  「じゅ、10分!? そんな無茶なっ…… 」


瀬尾  『年末は師走(しわす)ともいうしな。師も走るんだから柏木も気合入れて走れ。それじゃあね』


直人  「(電話が切れる) ちょっ、編集長っ!?」


(直人、早川徳次像に向き直る。)


直人  「早川 徳次……<地下鉄の父>、かぁ。
     ……貴方も年末には、あちこち忙しく走り回ってたのかな……」



(直人、カメラを向けると、早川徳次像の前に置かれた花束を発見する。)



直人  「……ん? 花束が供えてある……一体誰が……」



(直人、何かを閃き、携帯電話のリダイレクトボタンを押す。)



瀬尾  『……なんだ、柏木。もう着いたのか?』


直人  「残念ながらまだですが……面白いモノ見つけたんですよ」


瀬尾  『(呆れ声で)……ほぉ?』


直人  「さっき言ってた銅像の前に、花束があったんです」
     

瀬尾  『それで?』


直人  「いや僕の読みでは、鉄道ファンが早川徳次を崇拝して供えたモノかなって」


瀬尾  『だから何?』


直人  「今までにない切り口ですし、掘り下げたら良い記事になると思うんですよ」


瀬尾  『なんかスイッチ入っちゃってるし……潮時かなぁ……』


直人  「え?」


瀬尾  『決めたっ……柏木、今回の企画は外れていいぞ』


直人  「急に、どうしてですか……?」


瀬尾  『……お前の腕は、私が誰よりも高く買ってるつもりだけどさ。
     柏木だって気づいてるだろ? 最近のお前の記事、かなり評判が悪いってこと』


直人  「気づかないわけ、ないじゃないですか。でもそんな評判すぐひっくり返してみせますよ……」


瀬尾  『いーや、今のままじゃ無理だ』


直人  「なんでですか?……」


瀬尾  『お前には、記者としての<自覚>が足りないからだよ』


直人  「なっ……」


瀬尾  『ま、いい機会だろ。
     取材は許可するよ。頭が冷えたら、また連絡するように……いいな?』


直人  「……分かりました(電話を切る)」



(瀬尾編集長の言葉が直人の脳裏で反芻する。)



直人  「……記者としての、自覚……?」


真帆  「……あのぅ……すいません……」


直人  「面白い記事を書きたいってだけなのに、何が悪いんだよっ……」


真帆  「あの! お花を供えたいので、ちょっとそこを退いてもらえませんか?」


直人  「……ん? 何だ、どこから声が……?」


真帆  「ここです」


直人  「(辺りを見渡す)……どこだっ!?」


真帆  「こっちですよ! ……下ですっ!」


直人  「下……?」


真帆   「もうずーっと電話が終わるの待ってるんですけども!」


(直人、少女を見て呆然とする。)


直人  「なっ……もしかして、君が……」


真帆  「はい?」


直人N 「目と目が合う。しかし視線の交わる先は、僕の肩よりさらに低く、およそ胸の下あたり。
      両手一杯に花束を抱えている、赤いランドセルを背負った小学生女子が、そこにはいた」


真帆   「あの……私の声、聞こえてますか……?」


直人  「<メトロネーゼ>っ!」


真帆  「は、はい……?」


直人  「……取材させてくださーいっ!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【 タイトルコール 】


真帆N 「メトロネーゼに花束を」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【 Scene2: 大人と子供 】


真帆  「……全く、信じられませんよ」


直人N 「―――花束の主(あるじ)と衝撃の出会いを果たしてから10分後。
     僕は駅構内にあるカフェの一席で、小学生女子にお説教されていた」


真帆  「いい大人が公衆の面前であんな大声を出して。恥ずかしくないんですか?」


直人  「はい……とても恥ずかしいです……」


真帆  「日本人は幼児化が進んでいると聞いていましたが、まさかここまで深刻なんて。
     この国の末来を生きる身としては不安で仕方ありませんよ! お先真っ暗です!」


直人  「ごもっともです……」


真帆  「警察を呼ばれても文句言えないですよ。なんであんなことしたんですか?」


直人  「直前に上司と電話で揉めてしまって……今は後悔してます」


真帆  「……貴方、いくつなんですか? お仕事は? なんか取材がどうとか言ってたましたよね?」


直人  「24歳です。雑誌記者をやってます」


真帆  「はぁ……その歳になってTPOの分別もつかないようじゃ……
     記者としての自覚を疑いますよ。いえ、この際ハッキリ言います。社会人として失格です」


直人  「……記者の自覚、だって……?」


真帆  「え、そっちですか……?」


直人  「それだけは聞き捨てならないな……
     確かに大声を出したことは謝るよ。だけど、だけど僕にだってなっ……」


真帆  「えーい! だまらっしゃい! 言い訳は聞きません!」


直人  「ぐっ……話くらい聞いてくれよ!」


真帆  「むぅ、仕方ないですねぇ。私も一枚岩じゃありませんし」


直人  「難しい言葉知ってるな……」


真帆  「……まぁ、良いでしょう。事情くらいは聞いてあげます」


直人  「……最近、どんな記事を書いても評判があまり良くなくてさ。
     会社に迷惑かけた挙句、編集長にも気を遣われる始末だ。
     そんな自分が嫌でさ、次こそはいい記事を書こうって、
     つい気持ちが先走ったんだ。……確かに、君の言うとおりかもしれない。
     僕は社会人として不適格な行動をとった。すまなかった……」


真帆  「うわっ、情けないですね。ちょっと引きます」


直人  「慈悲の欠片もないな……」


真帆  「……詳しいことは分かりませんけど……でも、いいんじゃないですか?
     その熱意を持って仕事に取り組む姿勢は。ちょっとだけ、私のお母さんに似てます」


直人  「君のお母さんに? ……どんな人なんだ?」


真帆  「答える義理はないです」


直人  「あ、そう……」


真帆  「なるほどしかし、そういう事情なら取材を受けてあげてもいいですよ」


直人  「本当かっ! いや、本当ですかっ!?」


真帆  「私で良ければ……そういえば、お互い自己紹介がまだでしたね」


直人  「……あぁ、(名刺を探す) そうだったな。僕の名前は、柏木 直人だ。
     Mazzetto<マッツェット>社で雑誌ライターをやってる。よろしく頼むよ」


真帆  「ふぅ……、名刺を頂けて一安心ですよ」


直人  「ん? どうしてだ……?」


真帆  「柏木さんを警察に突き出す必要がなくなったので」


直人  「名刺渡さなかったら警察行きだったのか!?」


真帆  「当然です。雑誌記者だのなんだの言っておきながら、
     身分を証明できない人間なんて信用できません。ただの変質者です」


直人  「ぐっ……(正論に言葉が出ない)」


真帆  「ふふっ、冗談です……(居ずまいを正す)
     申し遅れました、私の名前は 白波瀬 真帆。
     白百合学院で初等部6年生です。以後、よろしくお願いします、柏木さん」


直人  「(たじろぐ) あ、あぁ……こちらこそよろしく頼むよ。
     ……それじゃ、変質者疑惑も晴れたところで、早速だけど……」


真帆  「ちょっと待ってください」


直人  「な、なんだよ。まだ別の容疑がかかってるのか?」


真帆  「いえ……さっきから良い匂いがするなーと思いまして」


直人  「ん? そりゃまぁ、お昼時のカフェだしな。だからどうした?」


真帆  「柏木さん。あの私……お腹が空いてます」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【 Scene3: 3番ホーム、水色のベンチ 】


直人  「くそっ……なんで君の飯代まで……」


真帆  「御馳走様でした。もうお腹いっぱいですぅ」


直人  「そりゃあんだけ食えば腹も膨れるよな。カフェでこんなに金使ったの初めてだぞ」


真帆  「いやぁ……育ち盛りなモノで」


直人  「飲めもしないブラックコーヒーまで注文して……少しは遠慮してくれよ」


真帆  「私も来年は中学生ですしね。大人の世界を一歩先に経験できる良い機会かなって」


直人  「人の金で一歩に進もうとするな。それに大人は口に含んだモノを噴き出したりしない!」


真帆  「だって想像以上に苦かったんですもん。お母さんは美味しそうに飲んでたのになぁ」


直人  「小学校は卒業でも、りんごジュースはまだまだ卒業できそうにないな」


真帆  「……トゲのある言い方ですね。私にひと泡吹かせたつもりなんでしょうけど、
     自分の立場を忘れてもらっては困りますねぇ、柏木さん。取材拒否しちゃいますよ?」


直人  「卑怯な……今からそんなんじゃ、ろくな大人にならないぞ」


真帆  「冗談はさておき。
     歩きながらですが、そろそろ取材を始めてもらっても構いませんよ」


直人  「くそ……なんかペース狂うな。じゃあ、君が早川徳次像に花束を供えている理由について教えてもらえないかな。」


真帆  「……花束を供えている理由、ですか?」


直人  「そう。例えば鉄道ファンで早川徳次を崇拝してる、とかさ」


真帆  「……間違いではないかも、ですね。
     強いて言えば、感謝の念を込めて……ということになるでしょうか」


直人  「やっぱりか! どういう経緯で地下鉄が好きになったんだ?」


真帆  「毎日通学で利用してたので」


直人  「自然と興味が湧いたってことか…… いいねぇ、だいぶ固まってきた。
     地下に舞い降りた天使。小学生の鉄女に迫る! これは鉄オタ界に旋風が巻き起こるぞ」


真帆  「話が大きくなってませんか? いくら私が可愛いからって、天使はさすがに……」


直人  「大事なのはインパクトだ。興味を持ってもらうためには、大げさなくらいが丁度いい」


真帆  「大げさって、それはそれで失礼な話しですね……
     それに私、オタクって言うほど電車に詳しい訳でもないですけど」


直人  「大丈夫大丈夫。知識の深さは問題じゃない、愛の深さが肝心なんだよ」  


真帆  「愛ですかぁ……?」


直人  「ふふっ、隠しても無駄だぜ。この時期、小学校は冬休みだよな?」


真帆  「そうですけど」


直人  「愛もなしに、貴重な冬休みを利用してまで花束を供えに来るだろうか? いや来ない!」


真帆  「それは……」



(真帆、突然立ち止まる。)



真帆  「この駅にも、もうすぐ来れなくなっちゃうから」


直人  「来れなくって……?」


真帆  「年明けに引っ越すんです。父の実家のある京都の方に……」


直人  「……そうなのか。友達と一緒に卒業できないのは、寂しいな」


真帆  「だから今日は思い出巡りなんですよ。東京には、しばらく来られないので」


直人  「……そういうことなら、僕にも協力させてくれよ」
    

真帆  「え?」


直人  「いや、僕もさ……小さい頃は、親の都合で転校ばかりだったから。
     慣れ親しんだ土地への名残惜しさ……みたいなの、分かるんだよね」


真帆  「柏木さん……」


直人  「1人であちこち回るよりも、誰かと話してた方がいろいろ思い出すだろうし」


真帆  「なるほど。それも取材の一環ってわけですね」


直人  「そういうこと」


真帆  「……わかりました。ありがとうございます、柏木さん」


直人  「それじゃ行こうか。立ち話してる時間がもったいないだろ?」


真帆  「あ、いえ……目的の場所には、もう着いてます」


直人  「え?」


真帆  「……このベンチで、少し休憩しませんか」


直人  「あぁ、そうだな。結構歩いたし」


真帆  「……ちょっとだけ、自分の事をはなしてもいいですか?」


直人  「ん、構わないけど」


真帆  「……私は両親が共働きだったので、放課後は学童保育所で過ごしていました。
     母の仕事が終わるのを待っていたので、迎えが来る頃には、もう外は真っ暗で。
     ずっと寂しくて、構って欲しいのに、母は疲れて相手にしてくれないんです。
     でもこのベンチで休みながら、電車を待っている時間だけは、母といろんな話をしました」


直人  「へぇ……どんな話をしたんだ?」


真帆  「大したことじゃないです。至って普通のはなしですよ。
     今日のご飯は何がいいか、とか。テストの点数はどうだった、とか。
     まぁ、どちらかと言えば、私が一方的に話してるような感じでしたけど」


直人  「ははっ、目に浮かぶよ……」


真帆  「母は不器用なんです。仕事は得意なようでしたが、それ以外はてんでダメで。
     家ではだらしないし、口下手だし、子供っぽいし、料理は下手だし」


直人  「散々な言われようだな」


真帆  「でもそんな母が、一度だけ真面目に話してくれたことがあったんです。
     私たちがこうして一緒に居られるのは、奇跡みたいなものなんだよって」


直人  「奇跡?」


真帆  「父と母は、地下鉄のホームで出会ったのが馴れ初めらしいです。
     だからもし、日本に地下鉄がなかったら……私は生まれなかったんだなって。
     当時は大げさだと思いましたが、考えてみると確かに凄いことだなって」


直人  「早川 徳次は、巡り巡って生みの親でもあるってことか」


真帆  「言ったでしょう? ……感謝の念を込めて、です。それは母の思いでもあるので」


直人  「君は、本当に大人だな」


真帆  「私は子供ですよ、柏木さん。私、早く大人になりたい……今はただの子供です」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【Scene4: その花の香りに…… 】


美咲  「……あら、珍しい。今日は2度目の来店ね」


真帆  「度々申し訳ありません、美咲さん」


美咲  「真帆ちゃんならいつでも大歓迎よ。お花はちゃんと供えられた?」


真帆  「はい。お陰さまで」


直人  「おい、この美人なお姉さんは誰なんだ……?」


真帆  「この方は、駅でお花屋さんを営んでいる荒金 美咲さんです。
     私が持っていた花束は……このお店で頂いたモノなんです」


美咲  「その人はお知り合いなの? お兄さんってわけじゃなさそうだけど」


直人  「あ……初めまして。柏木 直人って言います。
     雑誌記者です。今日は真帆ちゃんに取材をお願いしていて」


美咲  「雑誌の取材って……凄いじゃない、真帆ちゃん」


真帆  「どうなんでしょうかねぇ……」


直人  「憐れんだ目で大人を見るんじゃない」


美咲  「真帆ちゃんが有名人になったら、私も鼻が高いわ」


真帆  「あの……美咲さん。実は今朝、言いそびれたことがあって……」


美咲  「ん? どうしたの?」


真帆  「その……年明けに、京都のほうへ引っ越すことになったんです」


美咲  「そうだったの……だから、あんな浮かない顔してたのね」


真帆  「……美咲さんには、たくさんお世話になりましたから。
     最後に挨拶しようと思ってたんですけど……なかなか言い出せなくて」


美咲  「もう真帆ちゃんと会えなくなっちゃうのかぁ……寂しくなるよ」


真帆  「はい。私も、とっても寂しいです……」


美咲  「……分かった! それじゃ、最後に私からプレゼント」


真帆  「え?」


美咲  「好きなお花を選んできて。綺麗なフラワーアートにしてあげるから」


真帆  「で、でも……」


美咲  「遠慮しなくていいよ。ほら」


真帆  「ありがとう、お姉ちゃん」


美咲  「……うん」



(真帆、店の中へ入っていく。)



美咲  「……たくましくなったなぁ、真帆ちゃん」


直人  「付き合い長いんですか?」


美咲  「もう3年くらいになるかなぁ。よくお母さんと、お花を買いに来てたんだけど。
     でも大抵は、真帆ちゃんの機嫌が悪いときでね。よくお母さんから相談されたわ。
     真帆の機嫌が悪いんです、どうすればいいー?って……私、まだ独身なんだけどね」


直人  「あははっ、面白いお母さんですね」 


美咲  「……ええ、それだけに真帆ちゃんが可哀そう」


直人  「なんでですか?」


美咲  「あれ?もしかして、聞いてないの……?」


直人  「えっ?なにを……?」


美咲  「――――あの子のお母さん、先月に亡くなったの」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【 Scene5: 白波瀬 真帆の思い 】


真帆  「……さて、長かった思い出巡りもここで終点ですね」


直人  「早川徳次像、か……」


真帆  「最後にもう一度だけ、見ておきたかったので……  
     ごめんなさい、柏木さん。結局、ほとんど取材に協力できなくて」


直人  「謝るのは、僕のほうだ」


真帆  「なんでですか?」


直人  「美咲さんから聞いたよ。最近、お母さんが亡くなったって……」


真帆  「……そうですか。でも謝る必要はありませんよ。言えなかった私が悪いんです。
     柏木さんの言ったとおり、1人じゃ思い出せないこともありましたし、それに……
     柏木さんと一緒にお散歩できて楽しかったので。むしろ感謝したいくらいです」


直人  「……」


真帆  「今日は、ありがとうございました。いい思い出になりました」


直人  「もう行っちゃうのか……?」


真帆  「あまり帰りが遅いと、お父さんが心配しますから。
     ……あ、もしかして柏木さん。私がいないと寂しいんですか?
     全く、柏木さんは甘えん坊ですね」


直人  「あぁ、そうかもしれない……」


真帆  「え……?」


直人  「だって僕は、まだ君の本当の気持ちを知らない。
     雑誌記者としては、それを聞き出さないと……終われないんだ」


真帆  「……なるほど。
     確かに、取材に応じたからには、お話するべきですね」


直人  「もう大人ぶるのはやめなよ。それは君の素顔じゃないだろ」


真帆  「でも、こうしてないと……私、泣いちゃいますから」


直人  「泣いたっていいよ」


真帆  「でも……私っ、大人にならなくちゃ……」


直人  「大人だって泣きたいときは泣く」


真帆  「うぐっ……でも……」


直人  「そうやって大人を演じていれば、涙は止まるかもしれない。
     でも、心が泣いてるなら、それは嘘だよ。後でもっと辛い思いをするだけだ」


真帆  「うっ……ひぐっ…」


直人  「本当に真帆ちゃんは優しいんだね。周りの人を心配させたくないんだろ?
     でもね……だからって、君が無理やり大人にならなくてもいいんだ」


真帆  「……私、怖いんです。お母さんのこと、思い出せなくなっちゃうのがっ……」
    

直人  「大丈夫だよ。今、目一杯悲しんでおけば、その気持ちは嘘にならないから」


真帆  「柏木、さん……」


直人  「だから自分らしく、気の済むまで泣けばいいんじゃないか?
     ……僕が少しの間、人目から真帆ちゃんを隠しておくから。」


真帆  「いいん……ですか……私っ、泣くとすごくっ……うるさいですよっ……?」


直人  「だろうね」


真帆  「うっ……うあぁっ……うわぁああっ……!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【 Scene6: メトロネーゼに花束を 】


瀬尾  『……おお、柏木。どうだ、少しは考えられたか?』


直人  「編集長の言ったとおりです。僕には記者の自覚が足りなかった。
     自分がホントに書きたいことを、いつの間にか……見失っていました」


瀬尾  『うん』


直人  「編集長っ! 記事を書かせてください!」


瀬尾  『ん?いきなりそれかぁ?』


直人  「今度は評価のためじゃなく、誰かのために書きたいんです」


瀬尾  『おお、燃えてるねぇ……』


直人  「お願いします、編集長!」


瀬尾  『……そこまで言ってクソみたいな記事書いてみろ、今度こそクビだぞ!』


直人  「承知の上です」


瀬尾  『そっか。なら、好きにやってみな!』


直人  「……はいっ!」



直人N 「――――それから2週間が経って、僕の書いた記事が雑誌に掲載された。
     白波瀬 真帆の名は、あえて伏せた。それが読者の反響を呼んだのかもしれない。
      銀座駅にある早川徳次像の前には、たくさんの花束が置かれるようになっていた。
    メトロネーゼに花束を……僕の記事は、そのように締めくくられている」




FIN


※注意※ YUMA作成アプリケーションで使用されている、音声、イラスト等の所有権はすべてCreate a fantasy YUMAが
所有しております。利用規約の範囲内でのご利用をお願いいたします。